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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)215号 判決 1997年2月27日

東京都品川区東大井1丁目9番37号

原告

株式会社 加藤製作所

同代表者代表取締役

加藤正雄

同訴訟代理人弁護士

荒木秀一

同弁理士

鈴江武彦

石川義雄

小出俊實

松見厚子

兵庫県神戸市中央区脇浜町1丁目3番18号

被告

株式会社 神戸製鋼所

同代表者代表取締役

亀高素吉

同訴訟代理人弁理士

小谷悦司

主文

特許庁が平成6年審判第5984号事件について平成7年6月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

意匠登録第766928号の類似6(以下「本件類似登録意匠」という。)は、意匠登録第766928号(以下「本件本意匠」という。)に対する類似意匠として平成4年4月7日に出願され、平成5年11月30日に登録されたものであって、被告は、本件類似登録意匠の意匠権者である。

原告は、平成6年4月5日、本件類似登録意匠の登録を無効とすることについて審判を請求し、平成6年審判第5984号事件として審理された結果、平成7年6月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年8月21日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  請求人の申立て及び理由

請求人(原告)は、「意匠登録第766928号の類似6の登録は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として概ね次のように述べ、立証として、甲第1ないし第9号証(枝番省略)を提出した。

(1) 意匠登録第766928号の類似6(以下「本件類似登録意匠」という。)は意匠登録第766928号(以下「本件本意匠」という。)に対する類似意匠として平成4年4月7日に出願され、平成5年11月30日に登録されたものである。しかしながら、本件類似登録意匠は類似意匠登録の要件を定めた意匠法10条1項に違反して登録されたものである。類似意匠登録の登録要件としては、本意匠にのみ類似する意匠でなければならないことは当然であるが、本件類似登録意匠は、本件本意匠が要部とする点において相違し、「自己の登録意匠にのみ類似する」という要件を欠くものである。すなわち、本件類似登録意匠についてみると、本件本意匠が最も特徴とするブーム上部の目立つ位置にヒョウタン形のウインチを配設したその構造を欠き、また、ウインチをブーム上部に配設したことにより、上部旋回体後端下部をブーム基端部より前方に寄せることができた特徴を欠いている。したがって、本件類似登録意匠は明らかに本件本意匠とは非類似であり、本意匠にのみ類似する意匠という要件を欠くものである(無効事由第1)。

(2) 本件類似登録意匠は、その図面に示されたまま作動するとすれば、上部旋回体後端部がエンジンボックスに接触し旋回が不能となる。さらに、本件類似登録意匠にあってはウインチの位置そのものが不明確である。したがって、本件類似登録意匠に係るクレーンは未だ意匠が特定されたものといえず、「工業上利用できる意匠の創作」とはいえない。よって、本件類似登録意匠は、意匠法3条1項柱書の要件を充足していない(無効事由第2)。

以上のとおり、本件類似登録意匠は類似意匠登録の要件を定めた意匠法10条1項の規定に違反し、かつ、同法3条1項柱書「工業上利用することができる意匠の創作」の要件に違反して登録されたものであるから、同法48条1項の規定により無効とされるべきである。

2  被請求人の答弁

被請求人(被告)は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として概ね次のように述べ、立証として乙第1ないし第7号証を提出した。

(1) 無効事由第1について

本件本意匠の要部は次の2点である。すなわち、(A)走行時における収縮状態のブームを基端部がキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスよりも前方斜め上の位置において旋回フレームの上端部に枢着され、前下がりの状態でキャビンの下方側部を横切り、先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるように配設した点、(B)後端部上方にエンジンボックスを搭載した下部走行体と、キャビン、収縮状態のブーム、機器収納ボックス等の各構成要素の組合せ配置関係を、背の高いキャビンと低い機器収納ボックスの間に収縮状態のブームが正面から観察し得る状態で前下がりに配設し、ブームの枢着部、及び機器収納ボックスの後端が下部走行体のエンジンボックスより前方の位置関係に配設した点である。本件類似登録意匠は上記(A)(B)2点がそっくり具備しているものである。そうして、上記(A)(B)2点のように構成することは従来のトラッククレーンや大型ラフテレーンクレーンには全くみられなかった新規な特徴部分であり、全体観察上、看者の脳裏に強く焼きつくものといわねばならない。したがって、本件類似登録意匠が本件本意匠に類似するものであることに疑いがない。

(2) 無効事由第2について

上部旋回体の後端下部は内方に傾斜するテーパー面に構成されており、この部分については図面上もう一つ明確ではないが、上部旋回体の後端下部のコーナー部から側部にかけても若干内方に傾斜するテーパー面となっており、上部旋回体は充分旋回し得るものである。また、ウインチについては、意匠は物品の外観に施された美的創作を保護の対象としており、外観に表れない内部機構まで示す必要はない。ウインチを上部旋回体内に内蔵することは充分可能である。

3  判断

(1) 本件類似登録意匠

本件類似登録意匠は、本意匠を登録第766928号とする平成4年4月7日の類似意匠登録出願に係り、平成5年11月30日に設定の登録がなされたものであり、その意匠は願書の記載及び願書に添付の図面によると、意匠に係る物品を「クレーン車」とし、形態は別紙第一に示すとおりとしたものである。すなわち、その基本構成は、四つのコーナー部にアウトリガーを配し、この各アウトリガーの内寄りに四つの車輪を有し、後端部上方にエンジンボックスを搭載した下部走行体と、下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを各々搭載した上部旋回体とからなるものである。そうして、その構成各部の態様は、下部走行体については、前後の車輪の上方に車輪の上面部を大きく覆う側面視が略台形状を呈する板状の泥除けを取り付け、この右側部の泥除けの間には直方体の箱体状のものを取り付け、エンジンボックスは(「又は」とあるのは誤記と認める。)前方上方部と側方上方部がともに上向きに傾斜する前後に長い角ばった箱体状のものとしたものであり、上部旋回体については、キャビンは横幅が下部走行体の横幅の略2分の1弱、長さが下部走行体の全長の略2分の1強の角ばった箱体状のもので、その前面は中央より稍下方部が「く」の字状に前方に突出し、周側の上部には一連の方形状の大きな窓が形成され、上面の天井部の前方寄りにも方形状の大きな窓が形成されたものであり、機器収納ボックスは、高さをキャビンの高さの略3分の1、前後の長さはキャビンの長さと略同じの前後に長い箱体状のもので、ブームはキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置においてキャビンと機器収納ボックスの間に取り付けられた2枚の三角形状板の旋回フレームの後端に基端部が挿着されたもので、収縮、収納した状態では、前下がり状態でキャビンの下方側部を横切り、先端が下部走行体の先端より若干突出した傾斜姿勢で、その態様は、下方に取り付けた円筒状の起伏シリンダーの押圧運動により伸長した状態では、複数段の角筒状のものである。また、上部旋回体の後端下方部には上方からみると略台形状を呈する分厚いカウンターウエイトが取り付けられているものである。

(2) 本件本意匠

(a) 本件本意匠は、昭和62年1月22日に出願され、平成1年4月25日に設定の登録がなされたものであり、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「自走式クレーン」とし、その形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。すなわち、その基本態様は、四つのコーナー部にアウトリガーを配し、この各アウトリガーの内寄りた四つの車輪を有し、後端部上方にエンジンボツクスを搭載した下部走行体と、下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビン、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを各々搭載した上部旋回体とからなるものである。そうして、その構成各部の態様は、下部走行体については、前後の車輪の上方に車輪の上面部を大きく覆う側面視が略台形状を呈する板状の泥除けを取り付け、この右側部の泥除け間には直方体の箱体状のものを取り付け、エンジンボックスは前方上方部が上向きに傾斜する前後に長い角ばった箱体状のものとしたものであり、

(b) 上部旋回体については、キャビンは横幅が下部走行体の横幅の略2分の1弱、長さが下部走行体の全長の略2分の1強の角ばった箱体状のもので、その前面は中央より稍下方部が「く」の字状に前方に突出し、周側の上部には一連の方形状の大きな窓が形成され、上面の天井部の前方寄りにも方形状の大きな窓が取り付けられたもので、機器収納ボックスは、高さをキャビンの高さの略3分の1、前後の長さはキャビンの長さと略同じの前後に長い箱体状のもので、ブームはキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置においてキャビンと機器収納ボックスの間に取り付けた2枚の三角形状板の旋回フレームの後端に基端部が挿着されたもので、収縮、収納した状態では、前下がり状態でキャビンの下方側部を横切り、先端が下部走行体の先端より若干突出した傾斜姿勢のもので、その態様は、下方に取り付けた円筒状の起伏シリンダーの押圧運動により伸長した状態では複数段の角筒状のもので、基端部近くには楕円状のウインチが取り付けられたものである。また、上部旋回体の後端上方部(旋回フレームの後端)には上方からみると略台形状を呈する分厚いカウンターウエイトが取り付けられているものである。

(3) 無効事由第1に関して

本件類似登録意匠と本件本意匠との比較検討

(a) 本件類似登録意匠と本件本意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においては、以下に示す差異、すなわち、上部旋回体において、本件本意匠はブームの基端部近くに楕円状のウインチを取り付けたのに対し、本件類似登録意匠はウインチを取り付けていない点、また、本件本意匠は上部旋回体の後端に取り付けたカウンターウエイトを上部旋回体の後端上方部とするのに対し、本件類似登録意匠は上部旋回体の後端下方部である点において差異が認められ、細部においては、エンジンボックスの態様において、本件本意匠は前方上方部のみが上向きに傾斜するものであるのに対し、本件類似登録意匠は前方上方部と側方上方部がともに上向きに傾斜するものであるという差異が認められるものの、

(b) その余の全体形状については前記認定のとおり一致するものである。そうして、この一致するとした点は看者の注意を強く惹くものであるので類否判断を左右する要部をなすものである。とりわけ、下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを、収縮、収納した状態では基端部がキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置において、キャビン(「エンジンボックス」とあるのは誤記と認める。)と機器収納ボックスとの間に取り付けた旋回フレームに枢着され、前下がり状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り先端部が下部走行体の先端より若干突出するように配設した上部旋回体の態様は、その上部旋回体を形成するキャビン及び機器収納ボックス並びに旋回フレームの具体的態様の一致点と相まって看者の注意を強く惹くものであるので類否を決する決定的要素をなすものである。これに反し、差異点中、ブームの基端部近くに取り付けられたウインチの有無は、本件本意匠に取り付けたウインチも他の部分を圧する程大きなものでなく、また、その形態も特に特徴のあるものとはいえず、更に、この種の物品の属する分野にあっては必要に応じウインチの位置を多少変更する、すなわち、ブームの上端に取り付けるか、ブームの内部に内蔵するかの程度のことは容易になされる設計変更の範囲内のものと認められるので、ウインチの有無による差異は看者の注意を惹くものでない。なお、請求人代理人は、ブームの上部にウインチを配設することは大変目新しいことであり、これが本件本意匠の最も特徴とする点であると主張するが、この種の小型クレーン車にあっては、本件本意匠と同様にウインチをブームの上部に配設したものが本件本意匠の出願の日前にもみられるものであるので(1977年12月発行のAMERICAN POW' R-CRANE P4.00に所載のクレーン車)、この点に関しては特に本件本意匠の特徴とすることはできない。次に、上部旋回体の後端に取り付けたカウンターウエイトの取り付け位置の差異は、両意匠とも上部旋回体の後端部に上方からみると略台形状を呈する分厚いカウンターウエイトを取り付けたという点においては軌を一にするものであるので、その差異はそれ程目立たず看者の注意を惹くものでない。また、エンジンボックスの態様においても差異が認められるが、この差異は、殆ど看者の注意を惹かない。そうして、これらの差異点を総合しても前記の一致点を凌駕するものとは到底いえない。したがって、本件類似登録意匠と本件本意匠とは、意匠に係る物品が一致し、形態においても、類否判断を左右する要部において一致するものであるので、両意匠は類似するものである。

よって、本件類似登録意匠は、意匠法10条1項に規定する類似意匠に該当する。

(4) 無効事由第2に関して

(a) まず、上部旋回体の後端ブームがエンジンボックスに接触し旋回が不能となるとする点について、本件類似登録意匠の形態は、別紙第一に示すとおりのものである。

(b) ところで、この図面を具さにみると、そこに表された図面は各図相互に一致するものであり作図上には不備の点は認められない。したがって、この限りにおいては本件類似登録意匠の形態は特定できるものである。ただ、請求人代理人も主張するように、本件類似登録意匠を願書に添付の図面に基づきそのとおり実施した場合には、上部旋回体を回転すると上部旋回体の後端ブームがエンジンボックスの前端に接触し使用上不都合が生ずるやも考えられるが、しかし、これも上部旋回体の回転範囲がどの程度のものかもわからず、またこの程度の図面上の矛盾は精緻さを求められる機械図面の場合はともかく、意匠登録出願における図面にあっては許容される範囲のものである。次に、本件類似登録意匠はウインチの位置が不明であるとする点について、本件類似登録意匠の願書に添付の図面をみると正面図、左側面図、平面図からブームの上縁に沿って2本のワイヤーが取り付けられ、その後端はブームが取り付けられた旋回フレームの頂部にまで達していることが認められる。これによるとウインチはブームの基端部ないしは旋回フレームの内方に取り付けられたものとみて何ら不都合はない。したがって、本件類似登録意匠は、その願書に添付の図面を総合的に判断すると、当業者の立場から完成したクレーン車としての具体的な構成態様を充分に想定できるものであるので請求人代理人の主張には理由がない。よって、本件類似登録意匠は、意匠法3条1項柱書に規定する「工業上利用することができる意匠」に該当する。

(5) むすび

以上のとおりであるので、請求人代理人の提出した証拠及び主張をもっては、本件類似登録意匠の登録を無効とすることはできない。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1は認める(但し、審決摘示以外にも主張・立証している。)、同2は認める。同3(1)は認める。同3(2)(a)は認め、同(b)は争う。同3(3)(b)は認め、同(b)は争う。同3(4)(a)は認め、同(b)は争う。同3(5)は争う。

審決は、本件本意匠の要部認定について審理を尽くさず、その結果、本件本意匠の要部の認定を誤り、本件類似登録意匠は本件本意匠に類似するものと誤って判断し(取消事由1)、かつ、本件類似登録意匠は意匠法3条1項柱書に規定する「工業上利用することができる意匠の創作」であると誤って判断した(取消事由2)ものである。

1  取消事由1(審理不尽、本件本意匠の要部の誤認及び類否判断の誤り)

(1) 類似意匠登録が認められるためには、「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」であることを要し、その出願前の第三者の先願意匠や公知意匠に類似するものであってはならない。したがって、類似意匠登録の審査においては、本意匠と類似意匠とが真にその要部において類似しているといえるか否か、また、要部をそのように解釈した場合に出願前に存在する第三者の先願意匠や公知意匠を事後的に本意匠の類似範囲に取り込むことにならないかを考慮し、要部を認定すべきである。

しかして原告は、平成6年12月9日付け審判弁駁書(甲第4号証)において、本件本意匠の要部を被請求人(被告)が主張するような(A)(B)(前記審決の理由の要点2(1)に記載のもの)二つの抽象的概念で論ずることは、本件類似登録意匠がその出願前に存在する第三者の公知意匠や先願登録意匠にも類似することを意味し、被告自身が本件類似登録意匠の無効事由を自認する結果と同じであるとして、本件本意匠の要部を上記(A)(B)と解することの不当性を明らかにし、本件本意匠の要部は具体的な形状の特徴に求められなければならないとするとともに、特許庁の審査基準に照らして考えるときは、本件類似登録意匠は原告の公知意匠(審判時の甲第3号証)や第三者の先願登録意匠(同甲第4、第5号証)とは非類似のものとして登録されたものと解釈しなければならない旨主張し、証拠として「特許庁編 工業所有権法逐条解説」(平成5年1月14日社団法人発明協会発行)の691頁及び692頁、「意匠審査基準」(平成5年度特許庁)の26頁及び27頁、財団法人通商産業会発行「特許ニュース」第8832号の1頁ないし5頁及び第8834号の1頁ないし6頁を提出した。

しかし、審決は、原告の上記主張及び立証について全く審理しなかったものであり、その結果、類似意匠登録の要件である「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」の要件を正しく理解せずに本件本意匠と本件類似登録意匠とが要部において類似するという誤った判断をしたものである。

(2) 上記のとおり、本件本意匠の要部を上記(A)(B)と解することは誤りであり、具体的な形状の特徴に求めなければならないが、審決でいう、背の高いキャビン、背の低い機器収納ボックス、前下がり状態のブーム及びこれら各部の配置位置関係から構成されるクレーンは、本件本意匠の出願前公知のクレーンに示される基本的構成態様であり、本件本意匠に特有の形状ではない。本件本意匠の要部はこれらの点にはなく、<1>キャビン、<2>機器収納ボックス、<3>前下がり状態のブーム、の三点よりなる基本的構成に、本件本意匠のより具体的な特徴、すなわち、<4>瓢箪形状のウインチがキャビンの横後方で、運転者の目線より高いという、このような小型のクレーンにあって極めて特殊な位置に配設した点、<5>上部旋回体後部の旋回半径を可及的に小さくするため、上部旋回体後端下部を内側に向かって切り取り空間部を設けたこと、<6>ウインチがブーム上部に配置されたことに関連し、ウインチの右端がキャビンの一部に食い込み、キャビンの形状が変形している点、<7>ウインチが上部旋回体後端下部ではなく、ブーム上部に配設されているため、ウインチにワイヤロープを接続させるためのシープ(滑車)をブーム後端部に突出して設ける必要がない点、<8>エンジンボックスの形状は直方体であり、エンジンカバーはあみかけの形状となっている点を加えた形状にあると考えなければならない。

しかし、本件類似登録意匠にあっては、本件本意匠の上記具体的特徴(要部)<4>、<5>、<6>、<7>、<8>の中でも最も不可欠の特徴と考えられる<4>、<5>、<6>の形状については備えておらず、<7>についてはウインチの位置が明確ではない。<8>の形状についても、本件類似登録意匠にあっては変形五角形となっており、本件本意匠とは異なっている。

したがって、本件類似登録意匠は本件本意匠のみに類似する意匠とはいえない。

被告が本件本意匠の要部として主張する(A)(B)は、いずれも意匠において必要とされる「具体的形状」について述べたものではない。すなわち、これらは、ブーム、キャビン、機器収納ボックス等の配置位置関係を説明する概念的なものであり、甚だ曖昧かつ不正確である。配置位置関係については、仮に全く同じであったとしても、各部の具体的形状が異なれば視覚に訴える審美感も異なり、別意匠が成立するのは当然である。

原告の上記主張が正当であることは、本件本意匠と、意匠登録第887776号の意匠(平成3年5月10日出願、平成5年10月12日登録、意匠権者株式会社小松製作所他1名)及び意匠登録第887776号の類似1の意匠(平成3年5月27日出願、平成5年10月12日登録、意匠権者同上)(両者併せて以下「小松意匠」という。)とが、被告が一貫して本件本意匠の要部であると主張している前記(A)(B)において共通するものでありながら、共に設定登録されていることや、被告の株式会社小松製作所他1名に対する小松意匠の登録無効審判請求事件の審決(乙第1号証)からも明らかである。

以上のとおり、審決は、本件本意匠の具体的特徴を無視ないし軽視して、クレーンにおける一般的構成態様、すなわち、背の高いキャビン、背の低い機器収納ボックス、前下がり状態のブーム、及びこれらの配設位置関係に要部を認定し、本件類似登録意匠が本件本意匠に類似すると誤って判断したものである。

2  取消事由2(「工業上利用することができる意匠の創作」とした判断の誤り)

本件類似登録意匠は、その願書に添付された図面に示されたとおりの状態で上部旋回体が回転するとなれば、上部旋回体の後端部がエンジンボックスに接触してしまい旋回不可能となる。さらに、本件類似登録意匠にあっては、ウインチの位置そのものが不明確である。仮に、本件類似登録意匠において、ウインチが上部旋回体後端下部に内蔵されると解した場合においても無理がある。すなわち、本件クレーン全体の寸法から推測すると、ブーム基部後端下部と上部旋回体後端ブラケットの隙間はおおよそ5~6センチメートルであるから、ここにブーム伸縮用のテレシリンダー(最低でも2本)を配管させ、油圧ホース(最低でも4本)を通し、さらに、ワイヤーが前後左右にわたって往復運動しつつワイヤードラムに巻かれることからして、ここにウインチを内蔵することにはおよそ無理があり、現実にこのような形状をとることは考えられない。

したがって、本件類似登録意匠に係るクレーンにあっては、いまだクレーンそのものが特定されているとはいえず、クレーンが特定されていなければ、意匠そのものが特定されないことになり、本件類似登録意匠は、「工業上利用することができる意匠の創作」とはいえず、意匠法3条1項柱書の要件を充足していない。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一、二は認める。同三は争う。審決の認定、判断に原告主張の誤りはない。

二  反論

1  取消事由1について

(1) 本件本意匠は、収縮状態のブームの基端部と先端部の配設位置関係を、(A)走行時に収縮状態のブームを基端部がキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスよりも前方斜め上の位置(下部走行体の中央寄りの位置)において旋回フレームの上端部に枢着され、左下がり(前下がり)状態でキャビンの下方側部を横切り、先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるように配設した構成とした点、及び、収縮状態のブーム、エンジンボックスを搭載した下部走行体、キャビン、機器収納ボックス等の組み合わせ配設位置関係を、(B)後端部上方にエンジンボックスを搭載した下部走行体と、キャビン、収縮状態のブーム、機器収納ボックス等の各構成要素の組み合わせ関係を、背の高いキャビンと低い機器収納ボックスの間に収縮状態のブームが正面から観察し得る状態で前下がりに配設し、ブームの枢着部、及び機器収納ボックスの後端が下部走行体のエンジンボックスより前方上部より内寄りの位置関係に配設した点に、従来のクレーン車には全く見られなかった新規な特徴点を有しているのであって、上記(A)及び(B)の特徴点を同時に備えたところが本件本意匠の要部中の要部である。上記(A)(B)の構成を同時に備えた自走式クレーンは、本件本意匠が開発される前には1台も存在しなかった画期的な意匠であって、本件本意匠に特有の形状である。

そして、審決は、本件本意匠の要部を、上記(A)(B)のクレーン車の各構成要素の配設位置関係のみに存すると認定しているわけでは決してない。すなわち、審決は、本件本意匠と本件類似登録意匠に共通する本件本意匠の要部は、上記(A)(B)に加えるに、本件本意匠と本件類似登録意匠間に認められる上部旋回体を形成するキャビン及び機器収納ボックスならびに旋回フレームの具体的態様の一致点である「キャビンが角ばった箱体状でその前面は中央より稍下方部が「く」の字状に前方に突出し、周側の上部には一連の方形状の大きな窓が形成され、上面の天井部の前方寄りにも大きな窓が形成されたものであり、機器収納ボックスは、前後に長い箱体状で、旋回フレームは2枚の三角形状板である。」点も本件本意匠の要部であると認定しているのである。

(2) 本件類似登録意匠の出願を審査し、登録した時点では、本意匠出願後類似意匠出願前に出願された(あるいは公知にされた)他人の第三の意匠が本意匠に類似すると共に類似意匠にも類似する場合は、本来、その第三の意匠には本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するものとして実施が許されない違法な意匠であり、かかる違法な意匠に先願としての地位(あるいは新規性阻却事由としての地位)を認めることは類似意匠制度の趣旨に反するとして、第三の意匠が本意匠に類似する場合には、先願としての地位(あるいは新規性阻却事由としての地位)を認めず、該類似意匠登録出願の登録を認めるべきである旨の二件の東京高裁判決があったため、特許庁の審査官は、上記判決の趣旨を尊重し、本件本意匠に類似する原告製品の意匠(甲第3号証に添付の審判時の甲第3号証)は、この本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属する本来実施が許されない違法な意匠であるから、本件類似意匠とたとえ類似する意匠であっても新規性阻却事由としての地位を認めず、本件類似登録意匠の登録を認めたものであることは疑いがない。したがって、審決が認定している本件本意匠と本件類似登録意匠に共通する要部認定は、上記審判時の甲第3号証の意匠の存在によって何ら影響を受けるものではなく、決して違法な認定とはいえない。

また、小松意匠は上記(A)(B)を備えてはいるが、この種建設機械では従来全く見られなかったキャビンや機器収納ボックスに曲線や弧状曲面を多用する奇抜な形状を採用している結果、上記(A)(B)の各構成要素の配設位置関係の斬新さより、各構成要素の奇抜な形状の方が看者の注意を強く惹くこととなっている結果、もはや小松意匠は本件本意匠及び本件類似登録意匠とは非類似の意匠であると特許庁においても認定されたものである。

(3) 原告が本件本意匠の要部であると主張する、<1>ないし<3>の基本的構成に付加している<4>ないし<8>は、本件本意匠のような大型機器の意匠にとっては全体観察上、瑣末で細部に亘るものであって、審決認定のとおり看者の印象には残らないものといわなければならない。

2  取消事由2について

大型機器を小さな図面上に表現しているので明確さを欠いているが、上部旋回体の後端下部は内方に傾斜する傾斜面とし、エンジンボックスと干渉することがないように構成されており、また、ウインチは表面に表れない以上、意匠の図面としては図示する必要がないが、充分内蔵できるものである。

したがって、審決が認定したとおり、クレーン車の意匠としての具体的な構成態様は充分想定し得るものである。

第四  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)、審決の理由の要点1(請求人の申立て及び理由。但し、審決摘示以外にも主張・立証した旨主張している。)、同2(被請求人の答弁)は、当事者間に争いがない。

二  取消事由1について

1  本件類似登録意匠の出願日・登録日、意匠に係る物品、形態が審決の認定(審決の理由の要点3(1))のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  本件本意匠の出願日・登録日、意匠に係る物品、形態は別紙第二に示すとおりのものであること、その基本構成及び下部走行体の構成態様が審決の認定(審決の理由の要点3(2)(a))のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、本件本意匠の形態を示す別紙第二によれば、本件本意匠の上部旋回体において、キャビンは、横幅が下部走行体の横幅の略2分の1弱、長さが下部走行体の全長の略2分の1強の角ばった箱体状のもので、その前面は中央より稍下方部が「く」の字状に前方に突出し、周側の上部には一連の方形状の大きな窓が形成され、上面の天井部の前方寄りにも方形状の大きな窓が取り付けられたものであること、機器収納ボックスは、高さをキャビンの高さの略3分の1、前後の長さはキャビンの長さと略同じの前後に長い箱体状のものであること、ブームは、キャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上旨の位置においてキャビンと機器収納ボックスの間に取り付けた2枚の三角形状板の旋回フレームの後端に基端部が挿着されたもので、収縮、収納した状態では、前下がり状態でキャビンの下方側部を横切り、先端が下部走行体の先端より若干突出した傾斜姿勢のもので、その態様は、下方に取り付けた円筒状の起伏シリンダーの押圧運動により伸長した状態では複数段の角筒状のもので、基端部近くには楕円状のウインチが取り付けられたものであること、上部旋回体の後端上方部(旋回フレームの後端)には上方からみると略台形状を呈する分厚いカウンターウエイトが取り付けられていること、が認められる。

3  本件類似登録意匠と本件本意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態において、その基本構成は、四つのコーナー部にアウトリガーを配し、この各アウトリガーの内寄りに四つの車輪を有し、後端部上方にエンジンボックスを搭載した下部走行体と、下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを各々搭載した上部旋回体とからなるものである点、その構成各部の態様は、下部走行体については、前後の車輪の上方に車輪の上面部を大きく覆う側面視が略台形状を呈する板状の泥除けを取り付け、この右側部の泥除けの間には直方体の箱体状のものを取り付け、エンジンボックスは前後に長い角ばった箱体状のものとしたものである点、上部旋回体については、キャビンは横幅が下部走行体の横幅の略2分の1弱、長さが下部走行体の全長の略2分の1強の角ばった箱体状のもので、その前面は中央より稍下方部が「く」の字状に前方に突出し、周側の上部には一連の方形状の大きな窓が形成され、上面の天井部の前方寄りにも方形状の大きな窓が形成されたものである点、機器収納ボックスは、高さをキャビンの高さの略3分の1、前後の長さはキャビンの長さと略同じの前後に長い箱体状のものである点、ブームはキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置においてキャビンと機器収納ボックスの間に取り付けられた2枚の三角形状板の旋回フレームの後端に基端部が挿着されたもので、収縮、収納した状態では、前下がり状態でキャビンの下方側部を横切り、先端が下部走行体の先端より若干突出した傾斜姿勢のもので、その態様は、下方に取り付けた円筒状の起伏シリンダーの押圧運動により伸長した状態では複数段の角筒状のものである点、上部旋回体の後端には上方からみると略台形状を呈する分厚いカウンターウエイトが取り付けられている点で一致し、上部旋回体において、本件本意匠はブームの基端部近くに楕円状のウインチを取り付けたのに対し、本件類似登録意匠はウインチを取り付けていない点、本件本意匠は上部旋回体の後端に取り付けたカウンターウエイトを上部旋回体の後端上方部とするのに対し、本件類似登録意匠は上部旋回体の後端下方部である点、エンジンボックスの態様において、本件本意匠は前方上方部のみが上向きに傾斜するものであるのに対し、本件類似登録意匠は前方上方部と側方上方部がともに上向きに傾斜するものである点で差異があるものと認められる(但し、差異点については当事者間に争いがない。)。

4  原告は、本件審判手続において、本件類似登録意匠の先願登録意匠である小松意匠が、被告が本件本意匠の要部であると主張する(A)(B)(前記審決の理由の要点2(1)に記載のもの)の構成を有しながら設定登録されていること、本件類似登録意匠は原告の公知意匠(甲第3号証に添付されている審判時の甲第3号証)や小松意匠(同甲第4、第5号証)とは非類似のものとして登録されたものと解釈しなければならないが、本件本意匠の要部が上記(A)(B)にあるとすると、本件類似登録意匠は原告の公知意匠や小松意匠に類似することになってしまうことを理由として、本件本意匠の要部を上記(A)(B)と解することは不当であり、本件本意匠の要部は具体的な形状に求められなければならない旨主張・立証したが、審決は、原告の上記主張・立証について全く審理しなかったものであり、その結果、類似意匠登録の要件である「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」の要件を正しく理解せず、本件本意匠の要部の認定を誤ったものである旨主張するので、この点について検討する。(なお、審決が、本件本意匠及び本件類似登録意匠の要部をなすものであるとした「下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを、収縮、収納した状態では基端部がキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置において、キャビンと機器収納ボックスとの間に取り付けた旋回フレームに枢着され、前下がり状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り先端部が下部走行体の先端より若干突出するように配設した上部旋回体の態様」は、被告の主張する(A)(B)とほぼ同じ構成態様である。)

(1)  甲第3号証に添付されている小松意匠に係る意匠公報(審判時の甲第4、第5号証)によれば、小松意匠のうち意匠登録第887776号は、平成3年5月10日に出願、平成5年10月12日に登録されたもので、その形態は別紙第三のとおりであること、意匠登録第887776号の類似1は、平成3年5月27日に出願、平成5年10月12日に登録されたもので、その形態は別紙第四のとおりであることが認められる。

別紙第三、第四によれば、小松意匠は、下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部に背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間に伸縮自在のブームをそれぞれ搭載した上部旋回体の基本構成に、ブームの基端が、キャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置において、キャビンと機器収納ボックスとの間に取り付けた旋回フレームの後端に挿着され、ブームを収縮、収納した状態では前下がりの状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り、その先端が下部走行体の先端より若干突出するように配設した構成を加えた態様のものであることが認められ、この構成態様は、審決が、本件本意匠及び本件類似登録意匠における要部であるとした前記構成態様と一致するものである。

一方、別紙第三、第四によれば、小松意匠の上部旋回体において、キャビンと機器収納ボックスを浅い船底型の基台に載置した点、キャビンを全体が丸みを帯びた箱体状のものとし、その側方視において、前面から上面にかけて一連の大きな弧状曲面で形成され、その平面視においても、外側面前後部のコーナー部が大きな弧状曲面で構成された大きな前面窓と後面窓とを有している点、機器収納ボックスを前後部の外側面コーナー部がキャビンと同様に大きな弧状曲面に構成され、前下がりで丸みを帯びた細長い箱体状とした点は、下部走行体の前後部を湾曲形状としたことと相まって、一体として丸みのある印象を強調しているものであって、この点に看者の注意を惹く意匠としての特徴が存するものと認められ、上記形状における本件本意匠との差異が前記一致する構成態様によってもたらされる美感を凌駕し、別異の美感を醸出しているが故に小松意匠は新規性を有するものとして登録されたものと推認される。

したがって、小松意匠が登録されたからといって直ちに、本件本意匠及び本件類似登録意匠における前記構成態様に要部が存するとした審決の判断に誤りがあるとは認め難く、また、本件類似登録意匠が小松意匠に類似するということになるわけでもない。

上記の点に関する限りにおいて原告の主張は採用できない。

(2)  次に、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件本意匠の出願後本件類似登録意匠の出願前に、甲第3号証に添付されている審判時の甲第3号証の図面に記載の自走式クレーンを製造、販売していたことが認められ、上記自走式クレーンの意匠の形態は、別紙第五のとおりであると認められる。

別紙第五によれば、原告の上記自走式クレーンの意匠は、審決が本件本意匠及び本件類似登録意匠における要部を形成するとした「下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部に背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間に伸縮自在のブームをそれぞれ搭載した上部旋回体の基本構成に、ブームの基端部が、キャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置において、キャビンと機器収納ボックスとの間に取り付けた旋回フレームの後端に挿着され、ブームを収縮、収納した状態では前下がりの状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り、その先端が下部走行体の先端より若干突出するように配設した構成を加えた態様」を備えていることが認められ、また、全体観察においても本件類似登録意匠に類似していることは明らかである。

上記のとおり、本件類似登録意匠とその出願前公知の原告の上記自走式クレーンの意匠とは、本件類似登録意匠の意匠の要部において共通し、類似しているのであるから、意匠法10条1項の規定からいって、本件類似登録意匠は本来、意匠登録を受けることができないはずのものである。

しかるに審決が、本件類似登録意匠の要部は主として、「下部走行体の略中央の左側部に背の高いキャビンを、右側部には背の低い機器収納ボックスを、キャビンと機器収納ボックスとの間には伸縮自在のブームを、収縮、収納した状態では基端部がキャビンの側方若干後方位置でエンジンボックスの前方斜め上の位置においてキャビンと機器収納ボックスとの間に取り付けた旋回フレームに枢着され、前下がり状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り先端部が下部走行体の先端より若干突出するように配設した上部旋回体の態様」(甲第1号証11頁17行ないし12頁7行)にあるとした点は、公知意匠である原告の上記自走式クレーンの意匠との関連においては矛盾していることは避けられず、これは本件類似登録意匠と原告の上記自走式クレーンの意匠との対比、検討を行わなかったことによるものであることは明らかであり、その限りにおいて、審決の上記要部の認定は誤りであるといわざるを得ない(但し、このことは、本件類似登録意匠は原告の上記公知意匠とは非類似のものとして登録されたものと解釈しなければならないから、本件本意匠の要部は具体的な形状に求められなければならない、という原告の主張が直ちに妥当であるというわけではない。)。

なお、被告は、「請求の原因に対する認否及び反論」の二項1(2)掲記の理由により、審決が認定している本件本意匠と本件類似登録意匠に共通する要部認定は、上記審判時の甲第3号証の意匠の存在によって何ら影響を受けるものではなく、決して違法な認定とはいえない旨主張するが、採用できない。

(3)  以上のとおりであるので、本件については、特許庁に、原告の上記自走式クレーンの意匠との対比、検討を踏まえた本件類似登録意匠の登録適格性の検討をも含めて、本件本意匠及び本件類似登録意匠の要部についても再度検討させることが相当であると考えられ、原告の取消事由1に従い、その余の点について検討することなく、審決を取り消すこととする。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙第一 本件類似登録意匠

意匠に係る物品 クレーン車

説明 透明部を表わす参考正面図、同参考背面図、同参考左側面図、同参考右側面図及び同参考平面図における各薄墨部分は透明である。

本物品は、全長6780mm、全幅1995mm、全高2650mmである。運転室の周囲及び上部の窓は透明である。

<省略>

別紙第二 本件本意匠

意匠に係る物品 自走式クレーン

<省略>

別紙第三

<省略>

別紙第四

<省略>

別紙第五

<省略>

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